若者の酒離れ/お酒を飲まないアルコールを嫌うソバ―キュリアスとはなにか?

若者の酒離れ/お酒を飲まないアルコールを嫌う若い世代「ソバ―キュリアス」とは?

オーツカ

最近日本でも「お酒は飲めるけど、あえて飲まない」若者が増えているような気がします。

今回は若者の酒離れの理由や、海外で密かなブームになりつつある「ソバ―キュリアス」について取り上げます。

世界的に広まる若者の脱アルコールの傾向

今の20代は一世代前に比べて20%もアルコールを飲んでいないというデータがあります。

CNNがイギリスに住む若者1万人(16~24歳)を対象に調査した結果、2005年にアルコールを飲まないと答えた人が18%だったのに対し、2015年には30%まで拡大しています。

さらにOffice for National Statistics(英国統計局)の調査によれば、2016年にアルコール飲料を飲んだと回答した人は16~24歳で24%でした。
これは他の年齢層に比べ、アルコールを摂取する人の割合が最も低い値です(45~64歳では46.2%)。

つまりイギリス、アメリカなどの先進国では脱アルコール化がかなり進んでいるということ!

特にミレニアル世代のアルコール摂取量が減少傾向にあると報じられており、若者のお酒離れは全世界的なトレンドになっています。

WHO(世界保健機関)も2010年に「アルコールの有害な使用を低減するための世界戦略」を採択したので、欧米を中心にアルコールの抑制基調が広がっています。
2015年に国連で採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」にも、「アルコールの有害な摂取」を防止することが盛り込まれています。

MEMO
上記の調査で「イギリスの16歳~24歳を対象にアルコールの調査」!?とびっくりされた方もいるかもしれません。

日本ではアルコール類の購入、飲酒は20歳からですが、イギリスでは18歳から合法です。

しかも親が同伴しているのであれば、16歳からパブなどで食事と一緒にであればビールやシードル(リンゴの発泡酒)を飲んでも良いそうです。

お酒離れの5つの理由

若い世代のお酒離れは様々な要因が重なっています。

ここからは代表的だと思われるものをいくつか挙げてみましょう。

1つは経済的な理由

非正規雇用社会が拡大している日本では特に顕著で、若者の低所得化が進んでいます。

安価なストロングゼロや氷結といったRTD(Ready To Drink レディトゥドリンク)市場の拡大がそれを証明しているとも言えます。

若者はどんどん貧乏になっており、「お酒は高い」「お金をかけるものじゃない」という判断をする人も増えているのです。

お酒は味わうものでなく、手早く酔っぱらい酩酊状態を愉しむものという認識があるのかもしれません。

 

2つめはコミュニケーションツールの変容

スマホが普及し、SNSというツールが増えた今、いつでも誰かと繋がっていられる時代になりました。

TearmsやZOOM、Meetといったオンライン会議システムも普及し始め、テレワークや在宅勤務も増加しています。

こうなると若者が職場の人たちと流れで飲みに行くことも少なくなり、居酒屋やBarを訪れる機会が減少します。

ちょっと前までは当たり前に使われていた「飲みにケーション」ももはや死語となりました。

 

3つ目の理由は社会的な風当たりの変化

第二の理由にも関係しますが、インターネットの普及により様々な情報、ニュース、デマがあちこちで飛び交う時代となりました。

こと芸能人やスポーツ選手といった著名人のお酒の事故やトラブルは大きく取り上げられています。

逮捕や書類送検といった報道は毎日のように行われ、「お酒による社会的地位の損失」を幼いころから刷り込まれてきました。

健康被害の側面からも「アルコール=悪」が社会的に根付き、自然と若者とお酒に距離が出来るようになりました。

 

4つめの理由は肉体的、精神的健康志向

現代の若者は合理的な生き方を好んでいるように思えます。

食生活を正し、運動を習慣にし、瞑想にハマり、肉体的、精神的な豊かさを追求しています。

こうやって最適化しよう!

もっと効率化を図ろう!

と謳う自己啓発本はこれまで以上に売上部数を伸ばし、心と体はどんどんとヘルシー志向に向かっています。

糖質オフは当たり前、カフェインレス製品を好み、ミネラルウォーターにお金を払い、白米よりも玄米を食べ、断捨離を極めたミニマリストがもてはやされるとはひと昔前まで想像ができませんでした。

こういった若者たちに対し、アルコールの毒性は避けるべき対象となりました。

 

5つめの理由は生活の多様化

下の図は2017年の厚生労働省による飲酒習慣調査(性、年齢階級別)です。

飲酒習慣の状況(性、年齢階級別)

参照:厚生労働省/週3日以上で、清酒に換算し1日1合以上飲酒する者を飲酒習慣者としている。

これを見ると飲酒習慣のある「20~29歳」は13.0%。

最も多いのは「40~49歳」で29.3%、次いで「50~59歳」で27.1%とどちらも若者の2倍以上。つまり若い世代でお酒を習慣的に飲む人は少なくなってきています。

飲めないわけではないのに飲まないということは、飲酒という行為そのものが選ばれなくなってきているということ。

食料品、嗜好品だけでなく、世には様々なエンターテイメントが溢れかえり、可処分時間の奪い合いをしています。

飲酒に割く時間もその例外ではなく、エンタメ行為などに使う時間と比較され争われています。

40代以上の世代が若かりしころは、飲酒習慣を獲得する機会が多くありました。

スマホがないので、情報量も少なく暇も多い。大学やサークル、職場の人々に誘われれば居酒屋やBarにお酒を飲みに行きます。

家に帰って一人で晩酌することもあり、生活にお酒が根付くきっかけが多かったのです。

反して今の若者はお酒が入り込む隙間が減っています。スマホさえあればお酒がなくとも全く困らないのです。

飲酒という行為そのものの優先順位が下がってきているともとれますね。

 

ソバ―キュリアスの誕生

そして生まれたのが今回の主題「ソバ―キュリアス(Sober Curious)」です。

お酒との新しい距離感を掴んだアメリカのミレニアム世代を中心に密かなブームとなっている集団で、「Sober」は、「しらふの」とか「普段からお酒を飲まない」「落ち着いた」「地味」といった意味があり、「Curious」には「好奇心旺盛な」「興味深い」といった意味があります。

「飲める」「飲めない」ということ体質的なもの以前に、「あえて飲まない」「少量しか飲まない」という選択肢を持つ人々です。

彼らは「sobriety(ソベルティー)」という概念を持ち、完全な禁酒ではなく、健康面や様々な理由からお酒を「基本的には取らない、ごく稀に楽しむ」ことを良しとします。

禁酒のように必要に迫られてお酒をやめるのではなく、自らの意思でお酒の量やお酒との距離感を調整しているのです。

彼らは「今まで通りにナイトライフを楽しみつつ、ノンアルコールカクテルで人生を楽しむ」と語ります。

MEMO
「ソバーキュリアス」の中には、英国で実施されている公衆衛生キャンペーンの「Dry January(1月の禁酒月間)」や、オーストラリアの募金活動でアルコールをやめることを奨励する月間「Sober October(10月の禁酒月間)」がきっかけとなり、そのままお酒を飲まない生活を続ける人もいます。

 

ソバーバー、モクテルバーを利用する若者たち

出典:https://www.getaway.bar/

アルコールを取り扱わないノンアルコール専門バー「Sober Bar(ソバーバー)」も存在します。

先駆けとなったのはニューヨークのブルックリンのグリーンポイントにある「Getaway(ゲッタウェイ)」というバー

もともとポーランド移民が多く住んでいた地域で、ベジタリアン専門の食料品ストアやオシャレなカフェバーやビュッフェスタイルのお店まで、健康志向の高い人たちの集まるエリアです。

ゲッタウェイにはソバ―キュリアスの若者はもちろん、妊娠中や授乳中の女性、スポーツやダイエットをしている人、宗教的に飲めない人、アルコールなしでデートを楽しみたい人などが訪れます。

 

ニューヨークではゲッタウェイのような専門バーだけでなく、普通のレストランにもこだわりのノンアルコールメニューが存在します。

食事中に飲むドリンクの選択肢には当たり前のようにノンアルコールメニューが存在し、ランチ時にペアリングを愉しんだり、運転やスポーツといったお酒と相性の悪いあらゆるシーンに対応しています。

今後日本でもノンアルコールメニューを扱うBarやレストランは増えてくるでしょう。

食事中の多様な選択肢のひとつとしてノンアルコールが選ばれる日も近いと思います。

若者のお酒離れ、今後どうなる?

日本でも最近「とりあえずビールいい?」って言葉、聞かなくなりましたね。

「今日、あまり飲みたくない気分なんだよね」と堂々とソフトドリンクを頼む人も増えました。

飲めない人が空気を読んで乾杯だけはお酒を頼むべきといった圧力も減ったように思えます。

それぞれ飲み物の好みがありますし、嗜好は実に多様化しています。

 

これからは下戸やソバ―キュリアスといった個々の嗜好を尊重しつつ、選択肢の一つとしてアルコールは楽しまれるようになるでしょう。

特に若者のお酒の商品価値は相対的に低下傾向にあります。

どちらかというと飲む場面のほうが重視されているようで、商品価値を高めることよりもシーンをつくることが大切になってくると言えます。

お酒の製造メーカーは唯一無二の商品をつくるよりも、お酒を飲みたくなる場づくりをするほうが課題かもしれません。