オーツカ
タイトル通り、これだけたくさんのノンアルコールワインが世の中に出てきているので、あってもいいんじゃないのか「ノンアルコールのボジョレー・ヌーヴォー」。
年に1回のボジョレー・ヌーヴォーをノンアルコールで楽しめたら嬉しい人も多いことでしょう、
ノンアルコールのボジョレー・ヌーヴォーは存在するのか、その真相について解説していきたいと思いまーす。
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現状「ヌーヴォー」はあるが「ボジョレー・ヌーヴォー」はない
結論から言うと「ボジョレー・ヌーヴォー」のノンアルコールワインはまだ発表されていないようです。
しかし…がっかりするのは早いですよ。
「ボジョレー・ヌーヴォー」と同等の魅力が詰まった「ヌーヴォー」のノンアルコールワインなら、国内で発売されているのです。
今までにヌーヴォーとして発売されたノンアルコールワインには、次の銘柄があります。
- 「ヴィンテンス・ピノ・ノワールヌーヴォー」
- 「ポミヨンヌーヴォー」(ノンアルコール・シードル)
- 「ペピネル(ロゼ)ヌーヴォー」(ノンアルコール・シードル)
特に、2019年の秋に発売された「ヴィンテンス・ピノ・ノワールヌーヴォー」は、本格的ノンアルコール・ヌーヴォーワインとして話題を集めました。
「ボジョレー・ヌーヴォー」そのものではないものの、香りや味わいはまさしくボジョレー・ヌーヴォーを彷彿とさせる一品に仕上がっています。
ヌーヴォーとボジョレー・ヌーヴォーの違い
それでは、ヌーヴォーとボジョレー・ヌーヴォーの違いとは、いったい何なのでしょうか?
ヌーヴォー(Nouveau)とは、フランス語で「新しい」という意味。
その年に収穫できたブドウを使い、シーズンに先駆けて醸造・販売される新酒ワインを指します。
ヌーヴォーには、その年のブドウやワインの出来を確認する目的がありますが、収穫祭の「祝い酒」として楽しまれている側面も。生産国フランスにおいても、ヌーヴォーワインは、「年に一度のお祭りワイン」として飲まれているのです。
一方のボジョレー・ヌーヴォーは、「ボジョレー地区で収穫されたブドウ品種『ガメイ』で造られた新酒」のこと。ヌーヴォー(新酒)というくくりの中のひとつに「ボジョレー・ヌーヴォー」がある、と考えると分かりやすいかもしれません。
フランスには、原産地呼称保護制度(A.O.C.)と呼ばれるワイン法があり、厳しい規定が設けられています。この原産地呼称保護制度による縛りがあるため、「ヌーヴォー」と名乗れるワインはフランスワインの中でもごく少数。ボジョレー・ヌーヴォーは、そんな数少ないヌーヴォーワインのうちのひとつなのです。
そもそもボジョレー・ヌーヴォーって何?
先ほど、ボジョレー・ヌーヴォーは「ボジョレー地区で収穫されたブドウ品種『ガメイ』で造られた新酒」のことだと説明しました。
もう少しボジョレー・ヌーヴォーについて踏み込んでみましょう。
ヌーヴォーワインの解禁日は、毎年11月の第3木曜日。
日本でも、毎年ボジョレー解禁の時期は大きく賑わいますよね。
それもそのはず、日本はボジョレー・ヌーヴォー最大の輸入国。輸出量のおよそ半数近くを、日本が占めているのです。 日本人にとって「ボジョレー・ヌーヴォーの解禁日」は、年に1回のワインイベントとして親しまれている印象があります。
ボジョレー・ヌーヴォーの生産地であるボジョレー地区は、フランスの大銘醸地ブルゴーニュ地方の南部に位置します。この地で生産されているブドウ品種が、黒ブドウの「ガメイ」。ぽってりとした大きな果実が特徴で、イチゴやすみれの香りがするワインになるブドウ品種です。ボジョレー・ヌーヴォーには、この「ガメイ」を使うことが定められています。
ボジョレー・ヌーヴォーならではの味の特徴とは
「フレッシュ」「軽やか」「柔らか」こんな印象のキーワードが並ぶボジョレー・ヌーヴォー。香りの印象を別の物に例えると、以下のような表現が使われます。
- イチゴキャンディー
- バナナ
これらの香りを出す理由には、ボジョレー・ヌーヴォーの「醸造方法」が大きく関係しているのです。
ボジョレー・ヌーヴォーの醸造には、「マセラシオン・カルボニック」と呼ばれる特殊な醸造方法が用いられています。
マセラシオン・カルボニックは、ブドウの発酵から生じる二酸化炭素を利用した醸造方法。収穫したブドウをタンクに密閉することで、発酵由来の二酸化炭素がタンク内に充満します。すると、酵素の働きでスピーディーに発酵が進み、通常の醸造よりも格段に短い期間でワインにすることができるのです。
この醸造方法を使うと、短時間で果皮の色素が抽出できます。そのため、イチゴキャンディーのようなフレッシュ感がありつつも、しっかりと色づくワインに仕上がります。
また、この醸造方法では「酢酸イソアミル」と呼ばれる化合物が発生します。この酢酸イソアミルが、ボジョレー・ヌーヴォーに特徴的な「バナナ香」の正体。なんと、「吟醸酒」にも含まれている香り成分なのです。
日本人がボジョレー・ヌーヴォーを好むのは、日本酒でなじみのある香りが受け入れられたから。そんな理由も関係しているのではないでしょうか。
ヌーヴォーの魅力とは?ノンアルコールヌーヴォーの楽しみ方
ヌーヴォーとは何か、そしてボジョレー・ヌーヴォーとは何かが分かったところで、ノンアルコールヌーヴォーの楽しみ方を見ていきましょう。
ヌーヴォーの楽しみ方の基本は、ヌーヴォーにしかないフレッシュ感を楽しむこと。
冒頭で紹介した「ポミヨンヌーヴォー」などのノンアルコールシードルであれば、早積みりんごならではのフレッシュ感が大きな魅力です。熟成させるワインやシードルからは失われやすい「果実を直接かじったようなジューシー感」を楽しめる喜びはヌーヴォーならでは。ヌーヴォー以外のノンアルコールシードルと飲み比べ、味わいの違いを楽しむのもおすすめです。
次に試して欲しい楽しみ方は、ノンアルコールヌーヴォーの「製法」や「原料・産地」に着目すること。
例えば、「ヴィンテンス・ピノ・ノワールヌーヴォー」。このノンアルコールヌーヴォーは、ボジョレー・ヌーヴォーと同じ醸造方法「マセラシオン・カルボニック」が使用 されています。そのため、マセラシオン・カルボニック特有の「バナナ香」が感じられるのです。
ノンアルコールであっても、醸造方法の違いやブドウの個性はしっかりと表現されています。是非、「フレッシュ感」や「製法・原料・産地」を感じながら、ノンアルコールワインを味わってみてください。
ボジョレー・ヌーヴォーノンアルコールの今後の発売に期待
ボジョレー・ヌーヴォーのノンアルコールはまだ発売されていませんが、今後日本で発売される可能性はゼロではありません。その理由は、以下の二つです。
- 世界的にノンアルコール市場が急速に拡大していること。
- 2019年フランス政府が国民に対し「アルコール摂取の減量」を呼びかけていること。
もともと、フランスワインはフランス政府とともに歩んできた歴史があります。フランスのワイン法であるA.O.C.も、政府主導でフランスワインのブランディングを図った結果、整備されてきたものなのです。

様々なノンアルコールワイン
そのフランス政府が「脱アルコール」政策を打ち出せば、フランス国内でのノンアルコールワイン製造が増加することは必至でしょう。
2018年には89億ユーロものワインを輸出しているフランスは、世界一のワイン輸出国。全生産量のうち半数近くを国外に輸出している、ボジョレー・ヌーヴォーのノンアルコール化に目を付ける可能性は高いと考えられるのです。
近い将来には、11月の解禁日に「ボジョレー・ヌーヴォー」と「ノンアルコールのボジョレー・ヌーヴォー」が並べて発売される日がやって来るかもしれませんね。
- 戸塚昭 他編「新ワイン学」ガイアブックス
- ディヴィッド・バード「イギリス王立化学会の化学者が教えるワイン学入門」X-Knowledge
- マデリン・パケット「The WINE」日本文芸社
- 谷宣英「ワインテイスティングバイブル」ナツメ社
- 一般社団法人日本ソムリエ協会「2020日本ソムリエ協会教本」